本作は映画やカルチャーを対象にした評論家として27年すごしてきた僕・切通理作が、初めて撮る映画です。
 僕は青春映画を見てると、無意識に学生の時の自分に戻っています。「こんな学校に通ってみたいなあ」とか。
 だけど映画館の場内が明るくなると、白髪混じりの自分が居て、狐につままれたような気分で席を立つしかない。そんな浦島太郎のような体験を、映画にしてみたいという気持ちが、いつからか沸き上がってきました。

 自分が映画というものを通して知った、楽しいこと、面白いこと、現実に果たせなかったこと……を一晩に集約した、現代のおとぎ話を目指しました。
 時間表現である映画の中で、時の移ろいとともに人が変化していくのを見つめようと<舞台を絞り込んだ上で遊ぶ>と決め、全国から探してロケハンした6カ所でひとつの学校を表現。徹夜に近い日もありながら、撮影を8日間敢行しました。

 そこに主人公として、20代半ばになっても成長しきれない女子と男子を放り込みました。
 学校でも、クラスでも、輪の中心には入れず、大人になってもどことなく自分の居場所を見つけられない……窓ガラスを割ったり、教師を殴ったりというように暴れることも出来ないまま大人になってしまった若者2人です。

 若さと性は切っても切り離せません。「青(性)春のやり直し」をベースにしつつ、フェチ心をそこはかとなくちりばめた映画にしようと思いました。キネマ旬報で「ピンク映画時評」を22年連載している僕が、自分なりに<エロい映画>のありかたを問いかけた一つの結果を、かたちにしたものでもあります。

 ヒロインは、AV女優出身で、ウェット&メッシー(フェティシズムの一種。全裸や着衣の人体を濡らしたり、汚したりする性的嗜好)を得意とする深琴さん。
 もんぺを着せたら似合う、昭和の風情を漂わす24歳の女性です。

 深琴さんは、水井真希監督が自ら経験した男性による拉致暴行被害を告発した『ら』(2014)では、顔じゅう包帯で血をにじませる拉致被害者の一人をほぼ無言で演じ抜き、友松直之監督による近未来SFのヒット作『レイプゾンビ』シリーズ(2012~14)では、ゾンビと人間との間に生まれ、短期間に急成長したミュータント少女を、そのユニセックスな佇まいを活かして体現しています。

 男性側主役の須森隆文くんは、手足が長く、額がフランケンシュタインのように広い、日本人離れしたルックスの、26歳の役者です。

 塚本晋也監督の『野火』(2015)を見た後、僕が一番覚えていたのは、「もの言う死体」を演じた彼でした。そのたった1シーンで鮮烈な印象を残しました。

 須森くんは他にも、山本政志監督の『アルクニ物語』(2012)では、人類壊滅後の未来で生まれた、うなり声しか挙げない野人や、同監督の『水の声を聞く』(2014)では、カルト宗教の用心棒としてただならぬ気配を漂わせており、常に気になる役者でした。

 これまでセリフの少ない役で異形の印象を焼き付け、ワンポイントリリーフ的に起用されてきた2人を、僕の映画では中心に据えました(本作の撮影後、須森くんの初主演作品である内田伸輝監督作品『ぼくらの亡命』の公開が決定しました)。

 ちょっと外れたところにいる普通の女の子や男の子に配役して、僕の人生でやり残したことを代わりにやってもらいました。

 深琴さんが演じる同名ヒロイン「深琴」と、須森くん演じる男性側主人公「喬」の人間像は、監督・脚本である僕が、自分の過去を振り返るとともに、2人の役者にインタビューした上で構築していきました。

 「学生時代、あんまりいい思い出がなくて、あの頃に戻りたいとは1ミリも思わないけど、学校っていう空間はいいなと思いました。セーラー服で駆けまわるのが楽しかった」と深琴さんは撮影を振り返っています。

 大半が夜の学校を舞台にしていますが、ベテランの田宮健彦キャメラマンによる撮影・照明は、まさに光と影の世界でしか表現できない瞬間の連続を捉え、ある時は竜宮城のような別世界として、生きた舞台装置となっています。

 自ら心を閉ざし、ここではないどこかを求めているさまよえる魂に、本当の居場所はここだよと問いかける、まさに映画でしかできない魔法。

 そして魔法が解かれた後は、ほんの少し、生きていくことに顔を向けられる。そんな映画にしたく思いました。

 さらに本作では、撮影監督として黒木歩さんに参加を仰ぎました。黒木さんは「宮村恋」の名で2010年よりAV女優として人妻役で人気を得ました。2014年から本名を名乗り、女優を続けながらAVやMVの監督、短編映画やメイキング映像の撮影などマルチで活躍しながらジェンダーレスな表現を模索しています。

 黒木さんがある映画のメイキング映像を撮った時、現場で自らキャメラを操作しながらみんなを元気にしていくさまをたまたま目撃し、惚れこんだ僕は、再三懇願を続けました。

 しかしスタッフとして劇映画の長編一本をまるごと担うのは今回が初の経験。最初は「とても出来ない」と固辞されました。そして、ベテランの田宮健彦さんが「黒木さんとやってもいいですよ」と言ってくれたことが最後の一押しになりました。

 普通はベテランキャメラマンが初挑戦の撮影監督のもとで仕事するのはあり得ないことでしょう。女優としての黒木さんを撮ってきた人でもある田宮さんの理解あっての実現です。

 黒木さんはAVやBL(ボーイズラブ)作品で鍛えた、人肌や愛撫をフェチに、綺麗に撮るアプローチをキャメラやレンズの選択からこだわり、僕の求める「全体を風景的に捉える映画でありながら、人物はフェチ」という理想の形を模索していきました。

 僕が映画を撮ろうと思った時、初めに相談した友松直之さん。そして友松さんが制作の中心になって声をかけてくれた、録音・整音の石川二郎さん、美術の貝原クリス亮さん、助監督の高野平さんは、いずれもピンク映画やVシネマ、AV、一般映画で監督として活躍している人たちです。

 現場を知り抜いているベテランに見守られながら、これまでよりもう一歩新しいことにチャレンジする若い人たちと一緒に、53歳の自分が一本の映画を作りました。
 ご高覧いただければ幸いです。

切通理作

切通理作第一回監督作品「青春夜話」スタッフ

青春夜話 Amazing Place

2017年 74分

監督・脚本:切通理作 製作:シネ☆マみれ 制作総指揮:友松直之 撮影監督:黒木歩 撮影・照明:田宮健彦 美術:貝原クリス亮 録音:鬼脚音二郎 名田仙夫 音楽:KARAふる MA:石川二郎 編集:西村絵美 切通理作 スペシャル編集:長田直樹 制作・助監督:高野平 衣装・監督助手:菊嶌稔章 撮影/照明助手:高嶋正人 ホームレスメイク:松井理子 結髪:切通香奈子 ダンス指導:衣緒菜 現場応援:KOH 白石雅彦 スチール:SHIN メイキング・予告編:北島直樹 パンフレット:今井敦 題字デザイン:うとまる 文芸協力:大木萠 制作協力:アウトサイド

出演:深琴 須森隆文 飯島大介 安部智凛 松井理子 友松直之 川瀬陽太 黒木歩 衣緒菜 晴野未子 中沢健 石川雄也 和田光沙 櫻井拓也 野中慎二 戸塚駿介 佐野和宏