尾道で撮影した、私の監督映画としては二作目となる短編の現地でのレポを引き続き書きます。

 5月10日(木)は午前比較的ゆっくり過ごしました。食堂で鍋焼きうどんを頼んだら、東京と全然違うテイストの薄味で、とてもおいしかったです。広島で小道具の買い足しを行い、また助監督山口通平氏の作成した香盤表をコンビニでコピーし、私は、ふたたび尾道に向かいました。

 夕方にはカメラをお願いしている北島直樹さん(写真)が尾道に到着。この日から私と北島さんはゲストハウス「ヤドカーリ」の屋根裏部屋の個室で「同棲」することになります。
 
 今回撮影いかんにかかわらず行動を共にすることが多く「北島さんと結婚しろ!」とヒロイン深琴さんから言われましたが、当の北島さんは元来一人で行動する旅がお好きだとのこと。ストレスを与えてしまっていたとしたら申しわけありません。
 
 北島さんが発注していた録音機材と、私の方の、移動では持ち切れなかった小道具、衣装を入れたダンボールもこの日宿に着きました。
 
 出演者兼スタッフとして参加して下さる、岡山から来られた渡辺厚人さん、京都から来られた、学生である阿部真佑さんも合流。前日から到着している高橋薫さんともふたたび一緒になりました。香盤表を配り、予定を説明します。

 渡辺さんは車を出してくれたのですが、劇用車としても使わせて頂けるか確認。後部が場面には適さない事がわかり、やはりレンタカーを借りるということに。事情が二転三転するのもこうした撮影ならではでしょうが、高橋さんも神経使われたと思います。

 さて、この日の夜は実景撮影というかたちで、プレクランクインとなりました。男性主人公が住んでいるという想定である家の外景と、「月」の撮影でした。

 撮影させて頂く家のすぐ近くには、『東京物語』で知られる浄土寺があり、望まぬとも映画のロケ地に隣接し、かつ迷い込む尾道のスリリングな魅力に私の心も囚われてしまいます(写真は後日日中に浄土寺よりカメラを構える光景)。
 

 浄土寺でトイレを借りた阿部真佑さんが石段を駆け下りてくる溌剌とした姿が夜霧に白く浮かぶ遠景を見て、僕と同年代の高橋薫さんが「若いっていいですねえ」と感嘆の声を洩らしていたのが印象的でした。
 阿部さんはこの夜から、ごく自然にメイキング担当になって、北島さんからカメラを借り受けました。

 しかしこの晩の尾道には、月はどこにも出ていません。翌日からも狙えるとはいえ、滞在期間は限られていますので、撮れるところは撮っておきたいのです。海岸から見える、造船所や船などの実景に代えて押さえることにしました。

 シナリオ上、この実景は、ある殺人事件が起きる前に出てきます。暗い夜の無機質な感じが出ればいいと思いました。渡辺さんの車で海岸沿いを行ったりきたりして、数か所で撮影。夜の海の向こうの闇に灯台の光が小さくまたたくカットを撮ることが出来ました。

 私の一作目『青春夜話』では、エロは出てきても人は死にませんでした。今回、初めて自分の映画で人が死ぬということを、自分はどう捉えることができるんだろうか。そんなことを考えながら、闇の中にまたたく光を見つめていました。

 『青春夜話』ではメイキングをやってくださった北島直樹さんは、地方公開もすべて立ち合ってくださいました。今回尾道でもご一緒するのなら、そこで撮る短編映画というかたちで、北島さんに劇映画のカメラをやっていただくのはどうかと考えました。しかし30年ぶりに劇映画を撮るという北島さんには大変なプレッシャーだったと思います。

 実景とはいえ、ついにその実際の撮影行為に足を踏み入れた我々は、興奮を胸に、海沿いの地魚を出す居酒屋さんで打ち入り飲み会をいたしました。このお店は宿にも近く、比較的遅くまで開いているので、この後連日行くことになるのですが、我々が小さな映画を撮っていると聞いて、旅人なのに「常連客」扱いしてくれて、三日目には「チャージ料は要りません」とまで言ってくださって、感激でした。

 このお店に限らず、今回全体にわたって、我々が撮影していると、温かい言葉をかけてくださる地元の方が多く、うさん臭がられる態度を見せられたことは一度もありませんでした。シネマ尾道さんが地元の新聞含め、告知をしておいてくださったこともあり「撮影で来ているんでしょ」と気さくに接して頂きました。

 大林宣彦監督の映画の時のエピソードを語りだす方もおられ、撮影の予定がなければ、もっとじっくりお話をうかがいたいと思う局面もありました。