尾道で撮影した、私の監督映画としては二作目となる短編の現地でのレポを引き続き書きます。

5月11日(金)はいよいよ芝居部分の撮影もスタート。

私は早朝5時に起きて、昨日のロケハンをもとに、本日のメインであるフェリーの場面のカット割りをしました。

尾道から向島までのフェリーの発着はほぼ3分。船が海に出ている時間は実質1分ぐらいしかありません。往復ですが背景の向きが変わるので行きの船でしか基本撮りません。

つまり1便で1カットずつぐらいしか撮れない可能性があります。ですから、初日はフェリーに重きを置いて、陽のあるうちは一日中それに費やすぐらいがちょうどいいというのが助監督・山口通平氏の判断でした。

何便か乗るにしても、「港から船に乗ってるヒロインを見ているこのカットは×便目」「船の上から港に立つ人を見返すこのカットは×便目」「船に乗ってる2人が向き合って話すのをカメラマンが同乗して撮るこの芝居は×便目」と割り振っていった方がいいとも前日通平氏から言われたので、朝起きてまずカット割りをし、次に、どのカットを何番めの便で撮るのが効率が良いのか、カットの順番を錯綜させながらパズルのように割り振りました。

それで都合7便ぐらい乗れば良いという計算を立てて、一緒に泊まっていた撮影の北島直樹さんの朝の準備が終わってから、ゲストハウスの空き部屋である、窓から海が見えるソファの部屋でプランを伝え、話し合いました。

その後、フェリーとはまた別の、ヒロインがさ迷う場面の場所候補を増やすため、北島さんと一緒に坂の上を散策した後、本隊集合時間である朝9時半に尾道駅に着きます。ヒロイン深琴さん含む役者陣や公募したスタッフの皆さんも合流し、そのまま撮影場所のフェリー乗り場に車で移動。やはりここで合流した通平氏にカット順はとりあえずこうしましたと伝え、まずは深琴さんが、東京から連れてきた役者(現段階では名前は伏せます)が演じる男の人と港で戯れ、彼におぶわれて、そのままフェリーに乗るという場面を撮影。

深琴さんが無邪気に男の人の背中をぽんぽん叩きながらおぶわれていくヒロインを生き生きと演じ、幸先のいいスタートです。

撮影前に芝居初めの立ち位置に居た深琴さんが照りつける太陽に目を細めると、今回の公募スタッフであり出演者である渡辺厚人さんが、すかさず持参した大きな傘で、日焼けしないように守ってくれていました。渡辺さんはこれまで数多くの現場に参加していたというだけあって、気遣いがプロ並でした。後に撮影することになる、深琴さんが石段に倒れ込んだまましばらく伏せているというくだりでも、カメラの回ってない時は用意したクッションを間に挟んでくれました。

今回機材は北島さんがご自分の映画を撮るために用意したものを持ち込んで下さり、加えて、レンタル機材も借りてくれました。

パン棒を、これまでまったくそんなことをした経験のない、僕と同年代の高橋薫さんが頑張って持ち支え、学生スタッフの阿武太志さんがピンマイクの音をチェックします。李勇毅さんは車を出して下さり、弁当手配もしてくださいました。森川泰樹さんは現場の模様の写真、阿部真佑さんはメイキング動画を担当。

深琴さんが男と乗っているフェリーを港の側から見つめ、叫ぶ「昔の婚約者」役は、西日本在住者から公募した人や、紹介で連絡取り合った人の中から、選ばせて頂いた大高優飛さんが演じてくださいました。

数名いらっしゃった婚約者役の候補の方は皆さんとてもよかったのですが、最終的に大高さんにさせて頂いたのは、お願いして送って頂いたオーディション動画(シナリオの何場面かを演じる)の中で、叫ぶシーンで本当に写っている間中、ずうっと叫んでいるのが印象的だったからです。途中で場が持たなくなって細かい芝居を始めたりしない、そのまっすぐなパワーがこの役には必要だと思いました。

リアルでこの時初めて会った大高さんは、パワーとともに、ある種の痛切さ、せつなさを持ち合せた人であることがわかりました。

大高さんは、港から去りゆくフェリーに渾身の勢いで叫び、ヒロイン深琴さんの役名を呼びます。僕は監督として、その受けの芝居をする深琴さんとフェリーに乗り込んでいます。

ドラマ上では、大高さん演じる「昔の婚約者」の叫びむなしく、フェリーは遠ざかっていきます。ところが、途中で船がガクンと止まってしまい、なんと逆に動き始めたのです。あまりに痛切な叫び声に驚いて、心配して引き返したのでした。

事前に、乗り込んで何往復か撮影させて頂く許可は得ていたのですが、絶叫シーンの前には「これから役者が港から大きな声を出しますけど、気にせず行ってくだされば」と重ねて説明すべきでした。これは大目玉だとひたすら謝罪しましたが、係員の方も気さくに接してくれて、操舵室に「大声は気にしない、気にしないでいい」と声を張り上げてジェスチャーしてくださり、リテイクさせて頂きました。

船が止まった時は一瞬、ひやっとしましたが、叫び声に心配して引き返す尾道のフェリーの情の深さには、いま思い出すとあらためて感動いたします。
 
結局、7便どころか、20回ぐらい往復し、フェリー会社さんの好意で乗りっぱなしで撮影させていただけました。その分日焼けしてしまいましたが、写っている間は傘を差すわけにもいかないので、深琴さんには苦労をおかけしました。

フェリーから港に立つ大高さんを撮るカットでは、石段の途中で立っているのがなんとなく中途半端に思え、縁に立っているように位置を変えてほしいと、船の上から携帯で連絡しました。
ところがそうしてみると、なんだか昭和の仮面ライダーの変身役のような、「カッコイイ人」になってしまうのです。
 もともと「昔の恋人」役はイケメンであることが条件だったのですが、石段の途中で立っていると、取り残されたような「ポツンとした姿」に見えるのだけれど、縁に立っていると「ヒーロー」に見えてしまう。これは後で編集の時に良い方を選ぼうと思いました。

深琴さんは、2人の男の間での感情を、表情だけで表現します。私と深琴さんの前作『青春夜話』ではなかった方向の芝居ですが、見事に応えてくれています。
 
何往復目かの帰りのフェリーで、僕は自分の気持ちを告げました。
「深琴さんと、もう一度やってよかった」
そうしたら深琴さんはこう返しました。
「当たり前じゃないですか。一度で気が済むようなら、私はそれだけの女だってことだから」
 
 夕陽照り返す海を背景に、こんな会話がなされていたなんて、それ自体映画みたいじゃないですか!
 この会話の記憶は僕だけの宝物にしよう!と思いました。

・・・ところがなんと、この会話、学生スタッフの阿武さんに聞かれてしまっていたのです。
ピンマイクの電源を切っていなかったので、何十メートル離れていようと、僕らの会話は丸聞こえ。

 「切通さんが、1カットごとに昂奮しているのが全部聞こえてきて、面白かったです」と阿武さん。
 思わず顔が真っ赤になりました!